岡山大学工学部同窓会
 
「ハイテクの中でのローテク」 高島征助


 我が国では、日常の生活の中で「ハイテクノロジー」、「ローテクノロジー」、「バイ オテクノロジー」となど「…テクノロジー」という言葉が飛び交っている。ここで今更「 テクノロジー」等の和訳を言う必要もないであろうが、我が国では外来語をいとも簡単に 短縮しても容易に馴染むという器用さ?があり,これから紹介する「ハイテクノロジー」 は「ハイテク」、「ローテクノロジー」は「ローテク」として人々の口に上るのが常であ る。

 さて、少し前置きが長くなったが、ここでお話しようと思うのは、最先端の「ハイテク 」のなかで、「ローテク」とも言えない原始的な手段が最も有効であるという「ウソのよ うな本当の話」についてである。

 「航空機の発達によって世界が狭くなった」、と言われるように成田、あるいは関西空 港から世界の主要都市には最大30時間(ブラジル・リオデジャネイロ、アルゼンチン・ ブエノスアイレスへ)もあれば到達できるようになった。このことは政治・経済の分野は もとより文化交流や観光にも極めて便利になっている。しかし、このように便利になった 反面、対策に苦慮する問題も顕在化している。

 私は1昨年の秋、大阪で開催された「キルマー記念感染症対策シンポジウム」に出席し た。そこでは、現在、全世界で注目されている「SARS」,「鳥インフルエンザ」、「 エボラ出血熱」,「西ナイル熱」など早急な感染防止対策が求められている疾病群の実態 について、欧米、東南アジア等の専門家の現状について説明があったが、それらは大変興 味深く,また背筋が寒くなるような内容であった。その席で、我が国の感染症対策の第1 線で活躍中の旧知の教授と意見を交わすことも出来た。そこで私が驚嘆したことは、「蚊 を媒体とした感染症の防止対策」である。蚊はマラリア、日本脳炎などをはじめ,様々の 感染症の媒体として周知の害虫である。東南アジアやアフリカ地域の風土病のウイルスが いつ何時、我が国に侵入して来るかということに対して、国際空港、国際港では厳重な防 疫体制:「水際作戦」を敷いているが、とくに,世界各地から頻繁に到着する航空機内に 舞い込んだ小さな蚊を絶滅することは至難のことである。また、乗客の健康への配慮から 、大量の殺虫剤を噴霧するわけにもいかない。そこで考え出されたのが、機内の清掃の際 に、粉末状のドライアイスを全床面に散布する方法である。蚊は炭酸ガスに感応するセン ザーを持っており、夏には私達の皮膚に止まり吸血するが、そこに人間がいることを察知 できるのは、このセンサーによるものである。「ハイテク」の塊のような航空機内で、ド ライアイスに集まる蚊を原始的な「蠅叩き」で潰す図はいささかユーモラスでさえあるが 、この方法が最も有効であるという。

 世の中には、「ハイテクノロジー」というと、「錦の御旗」のように有り難がり、猫も 杓子もそれになびく風潮があるが、そのなかにあって、極めて原始的な方法で我が国の感 染症の防止という重大な任務に日夜黙々と従事する人々のことを知って欲しいと思い、こ こに紹介した。


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